自分で色々な居場所を選べる空間をつくりたい。
竣工を目前に控えた多摩川リバーサイドの『シェアプレイス田園調布南』では、70室を超える大型プロジェクトならではの視点で、独特な設計コンセプトが採用されている。
DOTE、IKADA、STUDY、BASEMENTといった独特な施設群の持つ意味、そしてキーワード「72 plus one」とは?シェアプレイス田園調布南の企画チームの方々に、設計の狙いについて伺ってみた。
株式会社リビタの企画チームの皆さん
シェアプレイス田園調布南の企画チームの皆さんに、
設計プランを解説していただきました。
リノベーションのベースとなった建物について教えて頂けますか?
ある大手企業の寮で、築42年の60室ぐらいの物件です。4階建てのRC造で、昨年の春頃、2010年春頃まで使われていました。多摩川線の沼部という駅ですが、渋谷から東横線で多摩川の駅まで行って、乗り換えて1駅です。結構、乗ってみると便利な場所です。
シェアで再生しようと考えたのは、どういった理由ですか?
最近はたくさん寮のある企業は、ある程度統合していくような傾向にあって、この建物も近々空いてしまうという時に物件を見せていただきまして。で、初めてこの物件を見た時に、何か降りてきたんです。シェアプレイスの神様みたいなものが(笑)。
たくさんの物件を見ていますけど、「いいな」と思うモノとそうじゃないモノって、やっぱりあるんですね。感覚の話になってしまって申し訳ないんですけど、見た瞬間に“これは・・!”と思って。
それは、どの辺りに感じたんですか?
この物件の持っているポテンシャルと言うか・・外観のこの古さも素敵だし、デザイン的に、もともとの建物にある種の格好良さがあったんですよね。で、中に入って屋上に行ってみると武蔵小杉の方が一望できて、多摩川も見える。ちょうど夕方で、夕日が沈むところも見えて、これはイイ、これはぜひやりたいと。
なるほど、それで神様が(笑)
わからないですけどね(笑)
あと、ここの場合はもともと食堂とか厨房とかのスペースがすごく広くかったので、色々なことができそうだと感じました。規模が大きい物件なのである程度広い共用部が必要なんですけど、建物によってはそれが無かったり、小さい物件もあったりするので。
予算の中でしっかりした耐震工事が可能だったのもポイントですね。
いろんな人がいることで、いろんな風が吹く
内部のプランは、どういった考え方が軸になっているんですか?
大きいキーワードはやはり「川」です。多摩川って、山梨の源流では1滴から始まっているんです。それがどんどんいろんな支流に繋がって最後に海に出ていくんですけど、シェアプレイスも全然知らない色々な人が集まってきて、出会って時間を過ごして、また巣立っていくみたいな。そういう川のような場所であれたらいいなという事を、大きなコンセプトに掲げています 。
ひとりひとりの居場所をつくるラウンジ
広大なラウンジ空間には、敢えて先進的な分散設計を採用。
その時々の気分に合ったお気に入りの場所で思い思いの時間を過ごせるのは、空間ボリュームに恵まれた大型プロジェクトだからこそ。
川でも自分でいろんな居場所や過ごし方を選べるように、いろんな人がいることで、いろんな風が吹くというか。人によって吹かせる風が違うと思うので、いろんな風が吹いて、風通しのいい場所があったり、風がぶつかることで何か生まれたりとか、そういう場所であったらいいなと。
今回はラウンジの大空間をあえて大きく使わず、様々な性格を持ったスペースが有機的に繋がりつつ、でも分散しているような設計ですよね。
シェアプレイスのシリーズは大型の物件が多いんですが、他の小規模なシェアの物件から来られた方からよく、前のトコロは密度が濃かったと言われるんですね、人と人との関係や距離がとても近いと。
空間のサイズ的に入居者の居場所や導線がある程度規定されて、自然と仲良くなってぎゅーっと濃くなっていきやすい、というのが小さい物件の特徴ですよね。
はい。それはそれで素晴らしいんですが、シェアプレイスの場合は空間が広かったり、いろんな場所があったりして、自分でその時々の居場所を見つけられるのが良いトコロだよね、と。
私たちとしてもシェアと言ってもある程度は大人の距離感で付き合ってもらえたらいいなと思っていたので、今回はそういう、自分でいろんな居場所を選べますよという部分をしっかり作るということを考えました。
例えばひとつの空間でも、床の高さが少し違うだけで居場所としては違うものになる。そういうのをいっぱい作って、入居者が沢山いる中で、本当に自分でいろんな場所に行ける、居場所を選べるというのを意識してやってます。
ひとつの空間でぎゅーっとではなくて、逆に多様な居場所の中から過ごし方を選択できて、しかもそれぞれが共存できる感じが面白いというような・・
はい。ワンルームの延長線上で、もっと人とコミュニケーションを取りたかったりとか、何かちょっとしたきっかけを求めてるといった人に入って欲しいなというイメージはありますね。
ソファやテーブルの置き方とか、ラウンジに入った瞬間に見える空間の感じとかにも、よく見るとかなり意図的な散らしがありますよね。
この辺りは視線の問題もあって、ラウンジに入る時、人がいっぱい自分の方を向いてたら嫌じゃないですか。そういうのは意識しながら計画をしています。
IKADA, DOTE, BASEMENT・・
設計の狙いもあって設備が多様ですが、いくつか解説していただけますか?
まずエントランスを入る前に、外に道路側に開いた駐車場スペースがあります。ここは、例えばワゴンカーや野菜売りを呼んで、入居者も外部の人も来てもらえるよ、というイベント・スペースのような使い方を考えています。そこで地域の人との交流が生まれたら、また楽しいなということで設けました。
地域と繋がるイベントスペース
敷地内には、地域と繋がるイベントスペースも用意。ワゴンショップやコーヒー屋台が出店され、近隣住人や多摩川土手を訪れる人々との接点になるかも?
サイクルステーション
エントランスの両脇には、屋内で安全に駐輪可能なサイクルステーションが。メンテナンス・スペースもあり、ちょっとした整備・調整はここで可能。建物の裏手には自転車の洗い場も。
休みの日に野菜売りのワゴンが来て、もちろん入居者も買うけど、町のおばちゃんとかも来て買っていくというような。
そうですね。町に対して、ちょっと開かれるかなぁ、と。こういう物件って、地域の人にきちんと分かってもらえるまでに結構時間がかかるじゃないですか。何なんだろうと思われてしまうので、イベントなどでうまく繋がって「ああ、ここってこういう建物なんだな」というのを分かってもらえたら良いなと思います。
そして廊下を抜けてラウンジに入ると、まずソファの置かれたマップ・ラウンジというゾーンがあります。 壁面に大きなシェアマップと自転車マップという周辺地図の描かれたホワイトボードがありまして、入居者が物件の周辺情報をお互いに書き込んで楽しめるようになってます。自転車マップはその長距離版で、物件から何キロというエリアまでプロットしてあって「自転車でココ行ったよ!」みたいなことを書いてもらえるようになってます。
ラウンジの主役はキッチン
キッチンは複数名で同時にできるように、作業台を挟んでぐるりと配置。実は周辺よりも少しだけ床も高くなっていて、ちょっとしたキッチン・スタジアム状態に。
靴を脱いでノンビリできる『DOTE』
ラウンジの一角には、文字通り土手のようになだらかな斜面、すなわち『DOTE』が作られる。
キッチンはもう、キッチンスタジアムみたいな。
やっぱりシェアの物件は「食」がすごい大切で、コミュニケーションのきっかけになったりもしますので、そこは力を入れたいなと。料理している間も色々な人と話したりして、ワンルームの部屋でひとりで作って食べるのとは違いますからね。キッチンの脇にはラウンジと屋外のテラスをつなげた「IKADA(いかだ)」というデッキがあって、ダイニング的なスペースになっています。ここは窓が全開口のサッシに変えてあって、思い切り開け放す事もできます。
ひとりで静かに
ラウンジの裏側には、ゆっくり静かに過ごせるスタディ・スペース。ゆっくりと本を読むも良し、ちょっとした仕事をこなすのも良し。
屋内なのに自然光が楽しめる和室
こちらもラウンジの一角。ガラスケースのようなインナーテラスには植栽が入り、トップライトから太陽の自然光が楽しめる。小上がりのようになった空間は、どんな風に使おう?
それから、ラウンジの裏手の人があまり来ないところにスタディスペースというものがあって、読書したりとか、ちょっと勉強したりできるように、ひとりがけの席とテーブルを用意してます。椅子の置き方も、あまり人の気配が気にならないようにしてあって。
そして、DOTE。
はい。IKADAの奥にある多摩川土手のように盛り上がっているスペースが「DOTE(どて)」です。なだらかな土手の斜面のような感じで、IKADAと同じように屋外まで続いていて、晴れた日には外に出たりもできます。横幅はけっこう広くて、3mぐらいはありますね。で、一番高いところが1mぐらい盛り上げてあります。
多目的な『BASEMENT』
地下室はシアタールームだけでなく、箱型のベース家具を積み重ねれば展示会に、ピクチャーレールを活用すればギャラリーにも変身。発想次第で様々な使い方ができる。
SOHO利用もできるアトリエ
1室だけ、SOHOにも対応できる広さがある部屋はアトリエと呼ばれている。道路からも部屋に直接アクセスできる。
今回は共用部が土足になってるんですけど、 色々な過ごし方が選べると言っても、全て椅子に腰掛けるという行為ばかりだと、ちょっとつまらないなあと。どこかに寝転べたり、座りこめる場所が欲しい。多摩川なら土手に腰掛けて話したり、寝そべって本を読んだりしてるじゃないですか。川の気持ちよさを建物の中でも表現したいなと思って色々と考える中で「土手って気持ちいいよね」という話をしていて、だったら、中にもあったらいいんじゃないかと。
屋上菜園とエコロジーの取り組み
菜園付き屋上デッキ
日当りの好い屋上はデッキテラスに。一部は菜園になっていて、自由自在に土いじりを楽しめる。
天気が良い日はティータイムを楽しむも良し。もちろん多摩川土手も一望できる。屋上には太陽光パネルも設置され、共用部の一部の電気を供給する。
そして、屋上菜園。
屋上には今回、デッキと屋上菜園を設けています。かなり広いスペースが菜園になっているので、入居された方がハーブとか野菜を育てて、料理なんかをしてもらえたら嬉しいですね。デッキの上に乗ると多摩川が一望できたり、武蔵小杉のビル群が見えたりします。
それと屋上には太陽光パネルが設置されているんですが、今回は建材として部分的に間伐材を使っていたり、元々の寮にあったものを再利用しているところも結構あるんです。居室の木製のレトロなデスクはメンテナンスして元々あったものを置いてますし、厨房にあったレンジフードも照明に変えたり、昔の洗面台は一部を外部の洗い場スペースに使ったりとか。そういう古いものの記憶を残しておきたいなあというところで、色々なトコロに面白いものが残ってます。
ダクトやレンジフードは住宅というよりは工業的なパーツなので、そこがどういう感じでとけ込んでくるかは楽しみですね。
この建物を初めて見た時に、ちょっと学校みたいだと思ったんですよ。なので、デザインのトーンとして学校っぽい、木とアイアンの組み合わせみたいなのをスパイスとして取り入れたいというのがあって、家具のテイストにもそういうのを入れたりしています。もうちょっと現代的にして。
今回はいくつかDIY的な部屋もあるんですよね?
はい。1階の部屋はDIYルームと言って、自分で壁を塗ったり、床を張ったりしていいよという部屋にしてあります。加えて、ひとつだけ広い部屋があって、ちょっとアトリエ的な使い方もできるようになっています。
72戸の部屋と1戸のアトリエからなる建物ということで、「72 plus one」というのが今回のキャッチフレーズになっています。
なるほど。ちなみに、建物の周辺はどんな感じですか?
沼部の街はほんと住宅街という感じですが、暮らすという意味では快適だと思います。1回乗り換えはあるものの渋谷に出るのも近いですし。多摩川線で蒲田もすぐなので、そこから京浜東北線にも乗れるし、羽田方面にも行けます。 隣の駅が始発なので、多摩川線はだいたい座れるんじゃないでしょうか。
沼部は昔からお寺や神社、水路なんかがあって、ちょっと歴史や情緒がある渋いエリアで、有名な桜坂もあります。で、お隣の鵜の木駅の方まで行くと、もうちょっと商店街やお店がいっぱいある。隣だけど、ちょっと毛色の違う駅なんですね。今回の物件はその2つの駅のちょうど真ん中にあるのが、ちょっと面白いんです。
多摩川土手を歩くと、田園調布の少し上品な感じと、沼部、鵜の木のもう少し庶民的な感じの文化がいい具合に混ざってますよね。建物から川までは2、3分ということですが、屋上なんかから見えるんですか?
見えます見えます。以前は見えなかったんですけど、今回はウッドデッキを敷いたので、そこに乗ると凄くいい感じで多摩川土手や川が見えます。 夏には川崎の花火大会もよく見えますね。
シェアプレイス田園調布南には、どんな人が集まるイメージなんでしょう?
都心で働いているけど、ちょっとリラックスできる時間を求めてるような人でしょうか。
職住近接という感じとはちょっと違うので、オンとオフの切り替えをしっかりして、週末は楽しむ。建物の中で楽しんでもいいし、外で楽しんでもいい。 多摩川も近いですし、きっと日曜や祝日をしっかりと楽しむような人が多いと思います。人とのコミュニケーションも含めて色々なコンテンツが揃っているので、帰るのが楽しみな家になれると思います。
来たる(2010年)2月20日、着々とリノベーション工事が進むシェアプレイス田園調布南の現地で第1回先行内覧会が開催されます。共用部のほか、専有部のモデルルームもご見学いただけます。定員になり次第受付を締め切らせて頂いておりますので、お早めにお問い合せ下さい!