シェアハウスソーシャル・キャピタル調査レポート

調査員の研究日誌
調査解説「シェアハウスの未来を考える」

さて、最後となる今回の調査データ解説のテーマは、「シェアハウスの未来」です。

長年シェアハウスで暮らしていらっしゃる方、運営されている方と較べれば知識も経験も浅いですが、今回の研究を通じて得た私なりの展望観を発信する事で、今後のシェアハウスに関する議論の活性化に役立つ事が出来ればと考え、僭越ながらこの場をお借りして私見を述べさせていただきます。


まず、今後もシェアハウスにおいて、共用部を共同利用することから生じる経済性は入居者にとって一定の魅力であり続けることはある程度想定できます。

その上で今後を展望するに当たり、1つの方向性として入居者同士の関係や交流に対して、直接的にデザインの介入が進むのではないかと考えます。現状の認識として、日本のシェアハウスにはデザイン面や共有設備面で非常に個性的な物件が増えていますが、その原因はやはり、入居希望者が個性的でデザイン性といった面で、各々の感性に合う物件を求める需要にあると考えます。

いわば、シェアハウスは住まいを通じた自己表現の場になっているのではないでしょうか。

受託のデザインの多様化、個別化はシェアハウス独特のものではありません。ワンルーム・マンションやファミリー・マンションも、価値観が多様化する中で物件にどのようなコンセプトを持たせるかが非常に重要な要素となっています。

そういった中でシェアハウスが持つ強力なアセット、それは他の入居者の存在、そしてシェアハウスでの交流ではないでしょうか。

今までも「モダンなスタイル」や「古民家風」といった提案で、間接的に感性の近い入居者同士の交流を意識させてきた部分もあるでしょう。しかし価値観の多様化の進展を考えると、今後はさらに、他の入居者や交流に対して直接的にデザインによる介入が進むのではないでしょうか。例えば、「●●な交流ができます」、「●●な人が集まります」といったようにです。

今回の調査結果でも入居動機の第3番目に「入居者との交流」が挙がったことからも、これは、ある程度現実味のある話ではないでしょうか。

しかし、そこで問題となるのが「交流を生みだすデザイン」とは何か、という事です。

どのようなデザインが、どのような交流を生みだすのでしょうか。

ここでのデザインとは、建物や内装といったハード面でのデザインだけでなく、コミュニティのデザインといった視点も含まれますが、今後はそういったことに知恵を働かせるウェィトが高まってくるのではないでしょうか。そうなれば、おそらく公園や商店街や商業施設といった、住居以外の分野からの知識と経験の輸入が求められるようなるのではないか、と予測できます。

ただし、コミュニティを何らかの軸を持ってデザインする一方で、交流の多様性を確保することも一層重要となるでしょう。

入居者の橋渡し型ソーシャル・キャピタルの高さを考慮すると、「多様な価値観を持った入居者がいる」ことは、それ自体が入居者相互にとって大きな魅力となるはずでもあります。

つまり、逆に「多様性を確保するデザイン」といったものも重要になるという事です。

いずれにしても、共に暮らす他の入居者がいることはシェアハウスの大きな武器です。

しかし、残念ながら他の入居者とのトラブルが無いわけではありません。

共に暮らす上で、どこかで何かしらが問題になることを避けることは、できないのかもしれません。他の入居者と暮らすことで多くのメリットを得ることができると同時に、デメリットも存在するでしょう。

「他の入居者とのトラブルを避けたい」というのは、おそらく入居者全員の思いですが、その解決には、何より地道な経験が求められると考えます。完全にトラブルが無くなることはないのかもしれませんが、その経験を地道に集約していくことが解決に近付いてゆく道ではないでしょうか。


さて、今回で、私の研究日誌は終了です。

この場をお借りして、ひつじ不動産の方々、そしてご協力頂いた事業運営者様や入居者の方々、この研究日誌やレポートに目を通していただいた方々、誠に有難うございました。

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