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3年間だけの、大人のユートピアかもしれない。


幼い頃、絵を描くことが大好きだった僕は、友達が来ている目の前で家の白壁に絵を描いてしまったことがあります。大丈夫?怒られない?と心配されながら、平気平気!と意気揚々に描いていたら、案の定、母に思い切り叱られました。

郊外に建つシェアデザイナーズカレッジ たまプラーザの存在を知ったとき、ふと思い出したのは今考えると恥ずかしいけど、楽しかった昔の記憶。

子供の頃は、誰もが遊び方を探します。あとで叱られるという予想が出来ないし、目の前にあるものの構造も、存在する理由も、用途も分からない。だから精一杯の想像を働かせて、自分なりの遊び方を模索するという話を聞いたことがあります。

大人になり色々なことを知ると、複雑な正攻法を考えてしまって単純な問題に限って解けないということがあるようです。童心に返るというのは、案外難しいものです。

さて、限度はありますが、何をしても叱られない、創造するという遊びを存分に楽しめるシェアデザイナーズカレッジ たまプラーザ。その目指すところは、改修前ワークショップのそれぞれの様子から垣間見えてきているのではないかと思います。

与えられた猶予は3年間。その後、取り壊しがあるかもしれません。後がない短い間だからこそ、顧みず、がむしゃらに遊び、そして思い切り学んでみるエンジンに期待したい。

建物すべてに手を入れる余地のある稀有な機会、存分に活かしきって欲しいと思います。


たまプラーザの駅から歩くこと約12分ほど。正面玄関の方に回ると、初めに見た時とは少し様子が変わっていました。

いたって普通だった茶色のドアは真っ白に。ハンドル部分だけが以前のままです。雰囲気は一気に明るくなり、手塗りであることがはっきりと分かるはみ出たペンキ。整えられていないムラが既に、らしさ全開。

さっそくドアを引いて、建物の内部へと歩みを進めます。


屋内に足を踏み入れた瞬間、靴箱の上に置かれたスピーカーから流れてきた音楽はコレ。大名曲ですが、なんとも意外。

先日のワークショップで真っ赤に染められた郵便受けには、部屋番号が記されていました。この大雑把な感じ、かなり好きです。おそらく、ドアを塗ったペンキの余りで書いたのではないでしょうか?

僕は映画が好きでよく観るのですが、この郵便受けの文字を見たとき、フランス映画の題字みたい…と思ってしまいました。いや、なんとなくです。なんとなく。

そのままエントランス・ホールに上がると、目の前に置かれているのは、結構貴重そうなアイテム。

プロフェッショナルではなく、あくまでスポーツを楽しみたいと思っているアマチュアユーザーを対象とし、デザイン重視のプロダクトを展開するPUMAのスペシャル・ライン「PUMA SOCIAL」。

なんとこれ、そのPUMA SOCIAL製の卓球台です。卓球台というチョイス自体も渋いですが、ハの字に開いた脚に、モノクロのカラーリングと、とにかくデザインが渋い。ザ・コンランショップで一目惚れして購入したものだそうで、日本には3台しかないというレアな代物だとか。

やりたいこと、やろうよ。事業者さん自らそう言って実践しているかのよう。

さて、エントランス左手には、部屋ごとに分かれた靴箱。

その先を抜けるとA棟の専有部フロアで、その手前のベンダー対面にランドリー・スペースになっています。ここも以前は床の塗装が剥がれてガランとした雰囲気でしたが、床をチェッカーフラッグ柄にしただけで、かなり明るい雰囲気に。


エントランスホールから続く廊下の奥には、ラウンジが。

入り口の目の前には、荘厳ささえ感じる立派なビリヤード台が置かれています。

直線的でシンプルなタイプが多いような気がしますが、西洋の古いグランドピアノのような図太い曲線の脚が、存在感を際立たせています。

立派なキューも揃い、ゲームの準備も万端。

見渡せば、以前はがらんとしていたラウンジには、アンティーク家具が所狭しと配置されました。

実はこれ、アンティーク家具店とのタイアップにより実現されています。つまり、置かれた家具は全て売り物。よく見れば値札も付いています。

もちろん自由気ままに使用して良いそうですが、何かが売れるとまた次のモノが入ってくる仕掛けだとか。ショップ側はウェアハウスやショールームとして活用し、入居者はユニークな家具と、その入れ替わりを刺激として楽しむというギブアンドテイク。斬新。

ラウンジの中央付近には、やはりアンティークのダイニングテーブル。

テーブルにはユニークな器が置かれています。手を繋ぎあわせた人形で型取られていて、写っている陰の形も面白い。なんともピースフルな一品。

奥の方に配置された古めかしいソファも、ブラウン管のテレビも、全て売り物。

ラウンジの大きな窓は、開け放てば開放感も抜群。

たまの夜にはテラス席で、ろうそくを灯してワインを飲みながら語りあう(ただし、静かに静かにどうぞ)…。結構優雅な気分に浸れるかもしれません。

奥にある暖炉(火はガス)の脇にはワインのストッカーが用意され、数本のワインボトルが置かれています。

写真の木のケースには「Cono Sur(コノスル)」の文字。

コノスルは、リーズナブルなのに美味しいと評判のワインを作っているチリのメーカーです。コルクの上に赤い鑞を垂らすことで瓶をさらに密閉する、ボトルのデザインも可愛らしい。有機栽培のブドウで作られている『オーガニック』が特に人気で、おすすめ。

バーも経営する事業者さんの持ち味が垣間見えるポイントです。

ふと棚を見ると、とても貴重そうなパテック・フィリップのカタログも発見!

腕時計への想い入れの強い僕のような人間には垂涎。さらっと置いてあったあまりの気軽さに少々驚き。

さて、早くも満腹の感がありますが、まだまだ先へ。


お次はラウンジの隣に広がる、またしても大きな大きなキッチンへ。

ここに絨毯を敷いてしまう思い切りのいいセンスには、学びたいもの。

奥には、共用部の壁に漆喰も塗ってくれた左官の職人さんお手製のピザ窯が鎮座。

コンロはガス、IH両方を備え、ビールサーバーも用意された広々とした空間。

シンクも大きく、当然ながら使い勝手は良さそう。

そして、何よりも楽しいのがラウンジと繋がるこのカウンター。

もはや特定はできませんが、外人ハウスの前は何かの寮だったはずのこの間取り。今となってはシェアハウスとしてポテンシャル抜群の構造と断言できます。調理機器や皿なども、見ての通りひと揃い。

カウンターには、こちらもザ・コンランショップで購入したという独特な形状の真っ赤なお皿が置いてありました。

用途はさまざまだと思いますが、パーティシーンなどでフィンガーフードを置くのに役立ちそう。

そして、お約束のビアサーバー。必要な時は、樽ごと買ってくる方向で。


エントランスとラウンジを挟んだ位置に、“多目的スペース”と呼ばれるちょっとした空間があります。

以前は外人ハウス時代の入居者が置いていったというレコードが置かれていただけのスペースには、新たにミニドラム、音響ミキサー、コンパクトなスピーカーなどが設置。ちょっとしたイベントスポットのような風情になってきました。

とは言えやはり味があるのは、この家にすっかり馴染んだレコード。

実は他に立派な防音室も完備されていて、音を出したい人にはかなり良い環境です。


大人な空気が漂うラウンジですが、一歩廊下へ出て専有部フロアの方を遠目で見ると、違う景色が広がります。

そこには一転して、まさに校舎を思わせる佇まいが。洗面台と廊下がセットで写っている図を見ると、やっぱり学生時代が走馬灯の如く蘇ってきます。

そして、専有部に関しては基本的に以前のままノータッチ。なにせ「自分たちでつくる」が信条のこの家。部屋まで作り込んであったら拍子抜けではあります。自由自在に、気の向くまま、創造性の向かうまま、自分の色に染め上げるのが醍醐味。

とは言え、一応はキャンバスとなる現在の素地を少し見てみます。


専有部は、ベッド、チェア、デスクなど、生活に必要な最低限のものが用意されるA棟と、何も置かれていないB棟に分かれています。

こちらは、2間続きの間取りが工夫しがいのあるB102号室。

大きめの収納も付いています。

壁だろうが天井だろうが、塗る、貼る、打つと基本的に何をしてもOK。原状回復も不要。ただし、壁を壊すとか、床を剥がすとか、電気工事をするといった事の前には恐らく事前の確認が必要です。この辺りはきちんと線引きの感覚を事業者さんと共有を。


続いてはスタンダードなタイプのB104号室。

広さは7.1畳。ほとんどの部屋はこのシンプルな形状です。

賃貸気質の染みついた人なら、まずは心置きなくポスターを貼ったり、幅木にフックや帽子掛けを打ち付けるトコロから始めてみてはどうでしょうか。他の人に部屋を見せて貰いつつ、その後の工夫を考えていくのも手です。

入居者同士で知識や技術、時間や食事などを分かち合うキャン“パ”スでありながら、個室に限らず、廊下、外壁をカスタムできるキャン“バ”スでもある。これからどう変わっていくかは入居される方々次第。


さすがにB棟レベルからのカスタムは重荷という向きには、小綺麗なA棟をどうぞ。

こんな具合に、予め一定の設えがされています。家具類も付いてます。

と言っても、手を加える余地はまだまだ残されています。

照明が少しユニーク。


さて、自由とは実は、困難さの裏返し。改装自由と言われても、逆に荒野に放り出されたような歯痒さを感じてしまう人も少なく無いのでは。

そんな時は、同じ事業者さんの運営する別の物件にお住まいの、某大学の建築学生を頼ってみるのも面白いと思います。実際、建物内には彼らが手掛けたサンプルルームがあります。

なるほど。あの部屋が・・・

こうなると。ボードには雑誌を挟めるようになってます。

きっと彼らも何やかやと忙しいはずですが、美味しいモノでもタップリとご馳走しつつ、色々DIYのやり方を教わってみるなど、いかがでしょうか。


絵を書いたり、木を切ったり、畑を耕したり、とかく体を動かすと体は汚れます。そんな汚れを洗い流してくれる場所が、この立派な岩風呂!かなり本格的です(自動湯沸かし機能付き)。

自由にお湯を張ってくれて良いとのことですから、イベントの時はぜひ。ただし必ず水着着用のこと。

そして、実はその手前にはシャワールームがズラリとこのように。

シャワールームは至って簡素。

こっちが日常ですから、そこはそのつもりで。

ただし、そこは「自分たちで作っていい家」。何か自助努力の余地が・・・さすがにあるのか無いのか。どうなんでしょうか。腕の見せ所といったところかもしれません。


最後に残る施設をザザッと。

A棟には、女性専用の洗面室兼ランドリールームがあります。

素朴な感じですが、空間も広いですし、使い勝手は割とよさそう。

なんのかんので、きっと賑やかな部屋になるのだと思います。

エントランスホールの脇には、通称「サプライ・センター」。

FAXとコピー機が置かれるそうです。SOHO的なテナント、確かにいそうです。

同じくエントランスホールの脇には、イベントなどで遊びに来たゲスト用の部屋も。

ちょっとした立地ではあるものの、これなら人を呼んでも大丈夫。

そして最後は、コンパクトめのシアタールーム。

ソファで映画でも楽しんではどうでしょう。ちなみに、まだ写真がありませんが廊下を挟んで対面には、レコーディングもできそうな立派な防音室まであります。

これで、今後入居者と一緒にさらに設備を加えるかもしれないというのだから、なんともはや。


さて、画材やら木材を買いに行く時のために、シェアカーが用意されています。

ホンダ ステップワゴンを侮るなかれ。

メルセデス・ベンツ Vクラスのデザインはここから来ているんじゃないか?と誰かが言ったとか言わなかったとか…。広々とした室内、ラゲッジルーム、使い勝手の良い構造、大き過ぎないボディ。

良い大人はワゴンかバンに乗りましょう、というのはあくまで持論ですが、いずれにしても、便利なやつです。


最寄り駅は、再開発によって大変貌を遂げた東急田園都市線たまプラーザ駅

外国人の建築家が手掛けたという駅ビルは、例えて言うなら京都駅とか、リニューアルされた大阪駅とか、そんな勢い。有名なカフェチェーンやらセレクトショップやらが軒を連ね、もはや買い物なら都心へ電車で向かわなくても‥という気さえするほど。

もう、**なんでもあります。**ほんとに。

で、そんなお洒落スポットと化したたまプラーザ駅からはテクテクと12分ほど歩いて、シェアハウスにたどり着くという事です。もともと閑静なエリアでもあり、道のりはずっと、どこを通ってものどかで程良い感じです。

起伏のある土地柄ですが、道を選べば駅との行き来は割と平坦。徒歩が少々しんどい方は、自転車でどうぞ。


さて、運営は「株式会社シェア・デザイン」さんです。

実はこの道ウン10年という不動産業のプロでもある事業者さんは、最近脱サラして原宿でバーのマスターをやっていたりします。

以前「脱サラして、夜はバーのマスター、昼はシェアハウスの親父になろうと思って」なんて語っていた通り、とにかく遊ぶことにかけては、情熱もその巧みさも実にハイクラス。こういう生き方ができたら痛快だろうなというロールモデルを地でいく感じです。

もちろん押さえドコロは押さえた上で、おそらくあとは割と奔放にやらせてくれるはず。

何かを創ることは決して特別なことではなく、工夫して遊んでみるという意味だと思います。クリエイターと呼ばれる職業に就いていなくても、そんな楽しみを味わう事は、誰にだってできるはずです。

3年間の家づくり。思い切り奔放に堪能してみようという方は、ぜひお問合せをどうぞ。そうそう、先日行われたワークショップの様子などは、コチラで少し見ることができます。


憧れ、期待。年を経るごとに、いつの間にかあまり考えなくなってしまうこれらの言葉。たまには、大人の知識と教養を持ったまま、子供の気持ちに戻ってみるのも良いかもしれません。

(オオスミ)

東急田園都市線たまプラーザの高級住宅地の真ん中に、20年以上外国人のゲストハウスとして経営されていたアンティークモダンな建物がありました。しかし、3.11震災後、外国人が一斉に帰国したため、建物だけが残されました。そこで今回、私達はこのアートの発信...
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